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第28話 陰謀 1

last update Huling Na-update: 2025-07-08 17:56:57

 潜む悪意は、どこに転がっているか分からない。

 王太子がその婚約者へ好意を示し始めていることは、敵側へと簡単に伝わった。

 敵は密やかに動き出す。

 ミカエラにとっての敵もいれば、王太子にとっての敵もいる。

 当然のように2人にとっての敵もいて、神殿にある小部屋では、王太子とその婚約者の敵が密談していた。

 副神官は眉を歪めて憎々しげに言う。

「いっそのこと、あの悪魔を攫って処分してしまえばよいのでは?」

「フフフ。副神官。神官ともあろうお方が、穏やかではない口ぶりですな」

「でも本心では。あなたもそう思われているのではありませんか? マグノリア伯爵」

 副神官の前にいる人物は、火の中に入れた栗が弾けて飛ぶような笑い声を上げた。

 チロチロと揺れる蝋燭の炎に浮かびあがるのは、黒い髪に赤い瞳。

 マグノリア伯爵家の現当主であり、国王の側室であるマリアの兄、第二王子であるミゼラルの伯父の姿であった。

 小さい部屋だというのに灯りを絞っているせいて部屋は薄暗い。

「ハハハッ。滅多な事を言うものではありませんよ副神官」

「ふふ。ココは防音のしっかりしている部屋ですから。本音をおっしゃっても大丈夫ですよ」

 神殿にある小部屋の防音がしっかりとしているのには理由がある。

 神官相手に秘密を打ち明ける信徒のために用意されている部屋だからだ。

 秘密を打ち上げる部屋で、副神官とマグノリア伯爵は密会していた。

「そうはいっても簡単に信じるようでは……この世の荒波を乗り越えることは出来ますまい」

「ふふふ。流石はマグノリア伯爵さま。用心深いことで……」

「問題でも?」

「いえ、良いことでございます」

 副神官は細長い体を2つに折って、マグノリア伯爵に恭しく頭を下げた。

「この国を背負って立つのは、マグノリア伯爵さまを後ろ盾に持つ、第二王子殿下であらせられるミゼラルさまが相応しい」

「嬉しいことを言ってくれるね、副神官。ミゼラルを第二王子だからといって、王太子の器でないと切り捨ててくれた国王よりも、よほど先を見通せる目を持っている」

「ありがとうございます」

 副神官は灰色の髪の乗った頭を下げて、マグノリア伯爵へ敬意を見せた。

「黒い髪に赤い瞳を持つ者を忌み嫌う風潮はあるが。過去、優秀な王のなかには黒い髪に赤い目を持つ者も多い」

「左様でございます。乱世にあっては、黒い髪に赤い瞳
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